環境によってもたらされた日本一2冠の快挙! 黒田哲夫鳩舎
■黒田哲夫鳩舎(上総連合会・翔道2段) 〒299-4324 千葉県長生郡長生村一松丁2467-1 TEL:090-7245-7525 ホームページ:「上総の空」 e-mail:6k462@symphony.plala.or.jp
日本優秀鳩舎賞&クラウン賞のダブル受賞を果たし、一躍日本鳩レース界のスターの座に登りつめた“千葉の昇り竜”こと黒田哲夫氏。“勝利することだけが求められる”上総という環境が生み出したこの怪物フライヤーは、2013年にスーパーエクセレントピジョン認定鳩を生み出すなど、それ以降も日本鳩レース界の主役に躍り出る。そして2015年11月29日、椿山荘「オリオンの間」にて開かれた全国著名愛鳩家の集いで「クラウン賞」を獲得。翌年1月10日――品川プリンスホテル「プリンスルーム」にて開催された総合表彰式では、彼が宿願に掲げていたレースマンの最高賞「日本最優秀鳩舎賞」に輝いた!
スローライフを夢見て
そもそも鳩レースを始めようとは思わなかった。
仕事に忙殺される毎日を送っていた黒田哲夫氏は、退職後、動物に囲まれたスローライフを夢見ていた。朝は鶏の鳴き声とともに起床。動物の世話や釣りをしながら1日をのんびり過ごし、夜は日の入りとともに寝る。あるいは果樹や野菜を栽培、そして家畜も飼育し、自給自足の生活にも魅力を感じていたようである。ともあれ自然に囲まれ、穏やかに生きていくこと。それが黒田氏にとって人生のゴールであった。
50代中盤に早期退職をした黒田氏はさっそくドリームライフに向けて行動し、「田舎暮らし」なるインターネットサイトで物件を探した。そこで見つけたのが、千葉県長生郡長生村――現在の黒田家である。さっそく犬、鶏、果樹の苗と理想とする生活に必需品だった素材を迎え入れ、なんとヤギまで購入。オリジナルのバター作りにも挑戦した。また中古物件には大きな池があり、移住前に住んでいた近くの手賀沼からエビ、フナ、ドンコをとってきて繁殖を楽しんだりもしたという。
「こんな幸せでいいのだろうか」。
黒田氏のスローライフは思い描いていた通りに、ただ穏やかに、穏やかに過ぎていった。
長生村に移り住んでから3か月たったころである。偶然、隣人がレース鳩を飼い始めたのをみかけた。
「どこに行けばレース鳩が手に入るんですか?」
自然と言葉が口からこぼれた。
そもそも黒田氏は“ド”がつくほどの熱血鳩少年であった。テストで好成績を収めることを条件に種鳩の購入をお願いするのは、日常茶飯事。青春時期の全てを鳩レースに注ぎ込むまでに夢中だったという。
「鳩レースがまだ存在しているんだと思ったら、もうすぐにやりたくなっちゃって。そこからデビューまでジェットコースターでした」。
自宅の2階を鳩小屋にリフォームし、種鳩もインターネットでなりふり構わず導入した。少年の頃に培ったテクニックを思い出しながら作出と調教を行い、その年の秋にはレースデビューを果たしていた。
自分の育てたレース鳩が帰ってくる。幾度となく味わった“青春の味”を堪能し、黒田氏のスローライフはますます充実なものとなった。
2012年のトラウマを乗り越え見事「日本一」
しかし入会した上総連合会は、その当時、日本最優秀鳩舎賞やクラウン賞、東日本CH、GNの総合優勝鳩舎を生みだしてきた名門中の名門。現在の会員も連合会長の森川幸吉氏を筆頭に生粋の勝負師ばかりだ。ちなみに14年にはジャパンカップの総合優勝鳩舎が誕生している。このような環境であるゆえ、評価されるのは勝者のみ…! 黒田氏は優勝至上主義のこの環境に刺激され、どんどん鳩レースにのめり込んでいく。“帰す”ことから“勝つ”ことにこだわるようになり、スローライフの中心はいつしか「鳩」になっていた。
2010年に関東三大長距離レースの一峰・ジャパンカップで総合4位を収め、スポットライトを浴びた。そして2012年、鳩舎を新築したことで環境が一層よくなったことが功を奏したのか、選手の仕上がりが今までとは違った。その予感は的中し、春の連盟レース緒戦の300キロで初総合優勝を体験するとRg、地区N、GP、桜花賞と好成績を収め、愛鳩の友社主催の全国タイトル「クラウン賞」を獲得。日本鳩レース界の最高賞「日本優秀鳩舎賞」でも堂々全国2位に輝いた。一躍全国区に名乗り挙げた超新星は、「打倒! 黒田鳩舎」という包囲門が敷かれながらも、その翌年も初代ブロックチャンピオン賞を手にし、再び「日本優秀鳩舎賞」に選出。しかもその当時四半世紀の歴史を誇りながら20羽にも満たなかったレース鳩の最高位「スーパーエクセレントピジョン」の認定鳩を誕生させるといった快挙まで成し遂げた。
「3年連続全国タイトル獲得」を目標に掲げて臨んだ2014年は、春秋Rg、地区N、桜花賞、GNの5レースで連盟シングル入賞、なおかつゴールドエクセレントピジョンの認定を受けた銘鳩を1羽誕生させるなど相も変らぬ強さを発揮。しかし春の600キロをジャンプしたことで、コンディションのバイオリズムが崩れたのか、GPで大失速…。結果目標であった全国タイトルの獲得には至らなかった。
前年同様に「全国タイトル」、しかも「日本最優秀鳩舎賞」を視野に臨んだ2015年は、前年の反省を生かし、全レースにエントリー。緒戦のRgは総合22、23、24位とベストテン入りは逃したものの、続く600キロでは総合6、8位。そして中距離の華・地区Nでは宿願の総合優勝を果たし、同日に行われた千葉ブロック連盟GPでも総合4位入賞を果たした。ファイナルのジャパンカップ併催の桜花賞でも総合7位と4度総合シングルに叩き込み、2015年春シーズンをフィニッシュ。自身2度目となる「クラウン賞」に輝き、ブロックチャンピオン賞では全国ナンバーワンの入賞率で返り咲いた。
「ブロックチャンピオン賞の発表と共に知った自分の立ち位置がわかりました。実は2012年も同じ状況で、藤田(淳一)鳩舎に逆転されて全国2位…。それだけに秋シーズンは正直、プレッシャーでしたね」。
秋は200キロで連合会優勝という幸先の良いスタートを切り、300キロも菊花賞も好ポジションで消化。しかし上総は前述の通り強豪ばかりが名を連ねており、とりわけ森川 連合会長は中距離レースで圧倒的に強い! しかも敵はレースマンだけにあらず、展開によって成績は大きく変わる…。レースを重ねても黒田氏の不安は拭われるどころか、むしろ増していったと言う。
そして迎えた運命のRg。森川 連合会長を筆頭に上総の強豪たちに上位を固められるも、総合で14位と16位に入賞。これで黒田氏の合計入賞率は、春の終了時点で2番手であったうさぎロフト(茨城北)の数値「0.06938」を下回る「0.05987」に止まり、逃げ切りに成功。見事日本一――宿願を叶えた!
求めるのはレースごとのスペシャリスト
入賞率全国1位を叩き出したポイントゲッターは、いずれも国内外のトップレースマンたちから集めた最強筋を組み合わせて、作り出されたものである。とりわけ15年は、基礎カップルのメス――D&マタイスとフェルハイエで作られた「マタイ号」の血が輝きを放った。基礎カップルの♂「アズマ号」との交配から地区N総合優勝鳩「アズマ絢号」が誕生。「高野89号」とでクロスしたトリの直仔からは桜花賞で総合7位、日本エースピジョン賞全国3位「九十九里希号」が生み出されている。またポイントゲッターではないものの、前述の基礎カップルの♂「アズマ号」とから生まれた2014年のゴールドエクセレントピジョン認定鳩「アズマゴールデンガール号」が、ジャパンカップで1%内入賞を果たし、愛鳩の友社主催の「G.CH鳩」の認定をゲット。2013年のスーパーエクセレントピジョンに続く超銘鳩までも誕生させた。
しかし黒田氏が考える2015年のナンバーワン鳩は、地区N総合優勝鳩「アズマ絢号」、日本エースピジョン賞を獲得した「九十九里希号」、そしてG.CH鳩「アズマゴールデンガール号」でもない。彼が選んだのは、春秋のRgにて計2ポイントを獲得したレーサー、その名も’Mr.H(*一松)1〟だ。前年も秋季Rgで総合5位を収め、日本優秀鳩舎賞の規程クリアに貢献した1羽。Rgで3度1%以内に入賞を果たした、まさに「中距離スペシャリスト」である。父親がヤンセン兄弟最後のチャンピオン「シャンテリー」の直仔掛けで、母親はヤンセンとカレル・スケルケンスの「ナショナルⅠ」を基点としたG&C・フィリップスのチャンピオン鳩の筋。ガチガチのスピード系と、然るべき血統背景だ。
黒田氏は「総合優勝よりエースピジョンの方が上」といった考えの持ち主だが、エースピジョンはエースピジョンでも同じ距離で確実に1%以内に入賞できるようなタイプを評価しているという。つまり「Mr.H1」は、黒田氏にとって理想のレーサーなのだ。
かくにも今回の日本最優秀鳩舎賞受賞然り、再開わずかなキャリアでクラウン賞、スーパーエクセレントピジョンといったドリームタイトルを次々と獲得し、登り竜の如くキャリアを伸ばしていった黒田氏。スローライフを満喫していたかつての彼からは想像できないほどに激しく、そして充実な日々を送っている。
「この場所に住まなければ、ここまで鳩に夢中になることはなかったでしょうね」。
今後は「Mr.H1」のようなスペシャリストをRgならもう1羽、地区N、GP、桜花賞なら2羽ずつ作りたいという。日本一のその先――日本最優秀鳩舎賞とダイヤモンドマーク賞との二冠「オリエンタルチャンピオン」を手に入れるために。鳩レースに勝利することだけが求められる上総という環境が生みだした怪物は、今、まさに第2の青春を謳歌している。
黒田哲夫鳩舎 クラウン賞&日本優秀鳩舎賞獲得のナンバーワンポイントゲッター
“Mr.H1”
14LK11417 BC ♂ 黒田哲夫鳩舎作翔
2016年
シルバーエクセレントピジョン認定
春千葉東連盟Rg500K4,909羽中総合105位
2015年
秋千葉東連盟Rg500K3,902羽中総合16位
春千葉東連盟Rg500K4,999羽中総合22位、千葉日報社杯600K3,238羽中総合29位
2014年
秋千葉東連盟Rg500K5,029羽中総合5位
その他の日本最優秀鳩舎賞&ブロックチャンピオン賞・ポイントゲッター
黒田鳩舎が生み出した超銘鳩
“アズマゴールデンガール号”
11LK00288 BCWP ♀ 黒田哲夫鳩舎作翔
2015年愛鳩の友社G.CH鳩認定、ジャパンカップ5,712羽中総合49位、千葉東如月杯300K総合12位
2014年ゴールドエクセレントピジョン認定、愛鳩の友社CH鳩認定、ジャパンカップ5,490羽中総合122位
2013年ジャパンカップ3,796羽中総合112位
2012年ジャパンカップ6,094羽中総合71位、千葉東如月杯300K6,482羽中総合41位